word
誰かの続きを始めるための、十の断片。
s c o o p
01午前二時
- 眩し過ぎる世界から身を隠す時間
- 世界が静まりかえる中で、僕を呼ぶ声が聞こえる
- 居心地の良い空間ほど似合わない夜
- カーテンから覗く月明かりは異世界
- 午前二時、君だけが綺麗なまま
- 冷めた珈琲、残された言葉たち
- 夜が深くなるほど、嘘だけが上手くなった
- 午前二時の着信音
- ひとりでいたいいたくない
- 朝が来るのがこんなに待ち遠しいなんて
02海へ沈む
- あなたのいない世界で息をする方法
- さよならは泡になって消えた
- 愛してるだけでは浮かべない
- 息を止めたら、君の声が近くなった
- 君の手を離したのは、海の底
- 一緒に溺れてくれると思っていた
- 助けてなんて、あなたにだけは言えなかった
- あなたを愛した罰ならば
- 沈んでいく君を、ただ見ていた
- あなたの息も、私が止めてあげる
03枯れた花
- あなたが愛した頃の私
- 枯れてからの方が、ずっと綺麗でしょう
- 捨てられない花
- 水を与える人は、もういない
- あなたの部屋で枯れていきたかった
- 美しいまま死なせて
- 花束だけが、あの日のまま残っている
- 腐り落ちても、まだ愛と呼べるなら
- あなたに摘まれた日
- 枯れた花ほど、根は深い
04帰れない夜
- この扉を開けたら、今夜が終わる
- 知らない香りを纏ったまま
- 今夜だけは、見つけないで
- 「帰りたくない」と言えば、困ってくれますか
- 夜明けまでの恋人
- もう戻れないところまで来てしまったね
- 洗っても落ちない、指先の赤
- 鍵は刺さったまま、夜だけが更けていく
- 帰る場所をなくしたのは、あなたのせい
- 朝焼けに、ふたりの影が溶けていく
05夏の終わり
- ひぐらし、今年も君を呼ぶ唄(こえ)が聞こえる
- 君のいない九月に、まだ肌がなじめない
- 線香花火の落ちた先で、さよならが待っていた
- 誰も迎えに来ない、八月の底
- 日焼けの跡から、君が薄れてゆく
- 夕凪に、言えなかったことばかり
- 向日葵だけが、あの夏の続きを知っている
- 潮騒だけを残して、君の声が思い出せない
- あの日の続きを、知らない海で待つ
- 来年の夏には、もうあなたを好きじゃありませんように
06忘却
- あなたを忘れた口で、同じ歌をうたう
- 弔うには、あまりに白紙で
- 思い出せない人のぶんまで、雨宿り
- 忘却にも、共犯者がいる
- 名前から先に水になる
- 何をなくしたのか、花だけが知っている
- あなたが誰でも、傷は残る
- 幸せな日には、ひとり減る
- もう誰の遺品でもない
- 忘れたふりが、遺言になった
07途中
- 栞を挟んだまま、季節がひとつ過ぎた
- 書きかけの手紙は、まだ宛先を選んでいる
- 言いかけた言葉の、続きを預かっている
- 終わらせ方を知らないふたり
- 完成しないから、まだここにいられる
- 乗り過ごした駅の名前だけ、覚えている
- 君の答えを待つあいだに、私が変わっていく
- まだ途中だと言えば、許される気がした
- 地図の端で、道が鉛筆書きになる
- つづく、とだけ書いて眠った